第4回公演「初笑い!ぷにぷにコント祭り」

日時:2009年1月11日(日)
14時・18時
会場:アトリエ無現
作・演出・出演:石崎一気
出演:
立川らく太
池戸美香
宮下洋一
古田秀幸
シタール演奏:Takasitar
ベリーダンス:Taeka
制作協力:アクティングラボ無現
■上演作品の紹介
「きっと来る・・」
この作品は、政治、法律、企業などによって、なす術もなく食い物にされている消費者の悲劇をテーマにしています。
映画「リング」のパロディというスタイルを取ってみました。
映画「リング」を見た時に、「貞子がテレビから出てくる所は見せているけど、帰る時もやっぱりテレビに入るのかなあ」と思い、その間抜けな姿を想像したら可笑しくて堪らなくなりました。
しかも、映画公開から10年が経過していますから、「いくら幽霊とはいえ、貞子も中年になっているはず‥」なんて考えていたら、すぐにコントのアイディアが纏まりました。
基本的な劇の内容は、財界が金儲けのために、政治や法律を駆使して消費者に商品の買い替えを強制していく現状を、貞子が面白可笑しく暴いていくというものです。
セリフだけだと単調なので、貞子が中年太りのせいでテレビに入れなくて四苦八苦するというアクション・シーンを、後半の見せ場にしてみました。
テレビをパントマイムで表現しなくてはならないので、演技としてはかなり難しいものになっています。
落語家の立川らく太君が「”ぷにぷに”に出演したい」という希望を伝えてきた時に、すぐにこの物語を上演してもらおうと思いました。
らく太君の個性、口調、体型などを考慮に入れて、彼のために書き下ろしました。
落語家には入りやすいキャラクターだと思うし、そこまで心理描写を緻密に行う作品でもないので、演劇の経験が少なくても十分だと思ったからです。
とにかく見た目のインパクトも重要な役ですから、らく太君にはぴったりです。
らく太君ならではの、滑稽な貞子像が出来上がりました。
実は、今回大きな発見がありました。
落語とコントは、似ていますが全く違うものなのです。
立つか座るかといった、動きの質の違いも勿論あります。
それ以上に、人物の捉え方が全然違うのです。
発想を一から転換して貰うのに、結構苦労しました。
落語のメソッドで演劇をやると、本当に地味なものになってしまうのです。
(逆に、演劇のメソッドで落語をやると、うるさくてしょうがないでしょうね)
公演前日まで、僕は口を酸っぱくして「頭で演じたらダメ!気を抜かない!」ばかり言っていたように記憶しています。
でも、らく太君はしっかり食らいついてきてくれて、沢山稽古をしてくれました。
その努力に、拍手を贈りたいと思います。
僕自身、この作品をかなり気に入っています。
特にラストのセリフは、我ながら、落ちとして極上だと思っているのですが、如何でしょう?
ただ、この作品の賞味期限は2011年までしかありません。
上演を希望される場合、お早めにお申し出下さい。
「究極のロハス・スタイル」
女性アナウンサーとして活躍中の池戸美香さんの一人芝居です。
そもそも、この作品は、一昨年の夏に書き上げたものです。
当時、地球温暖化問題が真剣に討議されるようになってきたところでした。
しかし、それは一種のトレンドに過ぎず、ビジネスのための環境だったり、お洒落なライフスタイルを誇示するためのポーズのように感じられたのです。
特に、当時急速に注目を集めた「ロハス」というライフスタイルが、僕には胡散臭くて堪りませんでした。
「ハーブティを飲むのが地球に優しい」とか「ヨガでダイエットするのが環境のため」といった理屈は、どうしても納得いきません。
それに、みんなで”マイ箸”を使ってCO2を削減したつもりでも、イスラエルでミサイルを1発発射すれば、その努力はたちまち吹き飛んでしまう訳です。
そんなちぐはぐな環境問題に対する日本人の意識を、かなりデフォルメしてグロテスクに描いてみたのが、この作品です。

初稿の段階から、池戸さんをイメージして書きました。
実は、これまで何人かの女優さんに「やってみない?」と誘ってみましたが、「演技が難しい」と言って拒否されてきました。
そこで、当初のイメージ通り、池戸さんに一所懸命お願いして、ようやく上演出来ることになったのです。
ただ、池戸さんは、舞台での演技の経験はありません。
そこで、アナウンサーでもやりやすいように、大半をアナウンサー口調にリライトしました。
また、実際のお客様を、セミナーの参加者に見立てるように、演出も変更しました。
普段、池戸さんが仕事でイベントの司会をやっている感じで演技して貰えば良いように書いたつもりです。
そうは言っても、あれだけサディスティックな役にリアリティを与えるには、相当な気迫が必要となります。
喋りは達者な人なので、稽古ではほとんど、その気迫の出し方ばかり練習していたような印象があります。
具体的に言えば、骨格の動かし方と呼吸の方法をコントロールする練習です。
派手な動きではありませんが、体の内部で様々な動きを駆使していたんですよ。
本当に池戸さんは頑張ってくれました。
特に、最後の2週間でコツを掴んだようで、急激な成長を遂げました。
本番前日の稽古で、そのあまりの素晴らしさに、僕は度肝を抜かれた程です。
本番でも、圧倒的な存在感で、難しい話を分かりやすく観客に伝えてくれました。
演技の質感も、今出来る精一杯のことが、出来ていたように思います。
舞台経験者やパフォーマンスをやっている人は、皆口々に「初舞台とは信じられない!」「素晴らしい!」と絶賛していました。
何と言っても、劇場を圧倒するその気迫が凄かったです。稽古の甲斐があったというものです。
僕は、本番の時、客席からこの作品を見ていました。
池戸さんの堂々たる演技に、心から感動を覚えました。
「人間に限界を設けてはいけない」ということを、改めて教えられたような気がしました。
「究極のロハス・スタイル」の上演が終わり、熱い拍手が沸き起こった瞬間を、僕は生涯忘れないでしょう。
「Fight The Power」

宮下洋一&古田秀幸コンビが、おかしなラップ・コンビとして出演しました。
古ちゃんは、昨年6月の「ぷにぷに夏の男祭り」で、「わが星」という作品に主演しましたので、ご記憶の方も多いと思います。。
宮ちゃんも、その時、映像作品「嘘つ機」を出品したり、照明を担当したり、「偽装疑惑」というコントで声だけ出演したりしてくれました。
その折に、宮ちゃんは「今度は、ちゃんと出演してみたい」と希望を漏らしていました。
「普段自主映画の監督をしているので、演出をすることはあってもされることはない。演出されてみることで、何かを学びたい」とのことだったのです。
そこで、一人芝居より比較的負担が少ない二人芝居に出演して貰うことにしたのです。
絡みの多い二人芝居だと、まめに二人揃って稽古を重ねないといけません。
その点、宮ちゃんと古ちゃんは同じ会社に勤めているので、頻繁に会って稽古することができる訳です。
仕事もTVのディレクターですから、空いているスタジオなどを使って、大きな声で稽古もできますしね。

やはり、「わが星」の経験が大きかったのでしょう。
二人での稽古のときは、古ちゃんがリーダーシップを取って、宮ちゃんに演技指導を行っていたようですよ。
まったく舞台の経験のない宮ちゃんを、ぐいぐい引っ張っていたように思います。
古ちゃんの役は、ボケっとしていれば良いように勘違いされがちですが、実は芝居全体をコントロールしているのはこっちですし、笑いを取るのも主に古ちゃんです。
かなり難しい役でした。
宮ちゃんも、凄く真剣に取り組んでくれて、見るたびに長足の進歩を遂げていました。
稽古の際、宮ちゃんは、僕に色々質問してきました。
納得するまで、細々した点を確認していましたよ。
「Fight The Power」の最大の特長は、音楽劇であるということです。
ダメダメなラップ兄弟の本当にダメな姿を描いた作品ですが、ハイライトはやはり実際にラップをやるシーンです。
そのためだけに、Takasitarさんに、ラップのバックトラックを制作してもらいました。贅沢ですよね。
実は、このラップの稽古が難航したんですよね。
やってみると、なかなかリズムに乗れないものなんです。
しかも、一応ダンスも取り入れなくてはなりません。
ラップが上手いという設定ではないので下手でも構わないんですけど、コントですから絶対に面白くなくてはいけません。
稽古時間の多くを使って、かなりしっかり練習してもらいました。
実は、最後の稽古で、ラップ・シーンの演出を根本から変えたんです。
宮ちゃんが「どうしても上手く出来ない」と感じるところがあったので、古ちゃんに協力してもらう形に変更しました。
それが功を奏して、より一層面白い作品になりました。
演出って、分からないものですね。
あと、警官に注意されるシーンも難しかったようで、ここもかなり稽古を重ねました。
ここを境目に、作品の雰囲気がガラリと変わるので、しっかりやってもらわなくてはならなかったのです。
これも、最後の稽古で、大きく雰囲気が変わりました。
躍動感に加え、リアリティがぐっと増したんですね。
とても良かったと思います。

おかげさまで、この作品は大評判です。
「大変面白かった」という声を、沢山頂戴しました。
僕自身も、「ギャグが上手くはまった」という手ごたえがありますが、何と言っても宮&古コンビのチームワークの勝利でしょう。
とにかく、あのペアが魅力的に見えるかどうかが全てを握っています。
いかがでしたか?
あの二人、可愛かったでしょう!
魅力的でしたでしょ!
初舞台&二回目のコンビですから、決して芝居が上手いはずはありません。
でも、登場人物が魅力的なら、それで十分ではありませんか?
僕も、宮&古コンビの大ファンになってしまいました。
2回目の上演が終りそうになった時、僕はとても寂しい気がしました。
だって、もう、このおバカなラップ兄弟を見ることが出来なくなってしまうのですから。
夜の部の公演で、大爆笑を取った二人が、舞台から楽屋に戻ってきました。
充実感があったのでしょう。
袖に入るや否や、二人はガッツポーズを繰り返していました。
目をキラキラさせて、口々に「良かった!」と呟いていました。
僕は、あれだけ輝いている大人の男の顔を見たことがありません。
「ベリーダンス社長」
社長役はベリーダンサーのTaekaさん。
部長役は僕。
平社員の鈴木役が立川らく太君です。
この作品は、とにかくTaekaさんを見ていただくための作品です。
そのためのお膳立てを、僕とらく太君がきっちりしておけば、それで十分でした。
「ベリーダンス社長」は、お客様に笑って頂くのが最大の目的です。 結果は、ご覧になった通りです。
前半に、細かい社会風刺も入れておきましたが、それはもう雰囲気作りの域を出ません。
お客様が、社長の出現を待ちわび、登場すればそのダンスに酔い痴れれば良いのです。
大大大好評でした。
予想以上の爆笑につぐ爆笑!
劇場が幸せオーラに包まれました。
コメディの醍醐味を満喫出来たように思います。
やっぱり笑いって良いですね。
当日お配りしたパンフレットにも書きましたが、不幸の多い世の中だからこそ、演劇人は幸せを創造していかなくてはならないのです。
「少しは皆様の喜びに貢献できたかな‥」なんて、自負しています。
しかし、それもすべてTaekaさんのお陰です。
ベリーダンスが素晴らしかったから、皆さん幸せになれたのですよ。
中途半端なダンスではそうはいきません。
しっかりしたダンスがあって、それを受け止めるダメダメな日本人がいるという対比の構図だから、笑えたのだと思います。
その落差が大きければ大きいほど、可笑しさが増すのです。
こんな作品に快く出演して下さったTaekaさんには、いくら感謝しても足りません。
本当にありがとうございました。
「シタールライブ 」
「”ベリーダンス社長”の後は草木も生えぬ」と僕は常々言ってきました。
あの熱狂の後、どんな芝居をやっても無駄です。
勝ち目はありません。
そこで、音楽の生演奏で、劇場の雰囲気を変えてもらうことにしました。
勿論、ぷにぷにパイレーツの誇るミュージシャン、シタール奏者のTakasitarさんの登場です。
今回、演奏の内容は完全にお任せしました。
昼の部と夜の部でまったく違う内容の演奏をされていましたね。
昼の部では、シタールの紹介的なデモンストレーション。
夜の部では、ストイックな演奏。
両方聞くと、より全体像が見えるといった感じでした。
やっぱり、ぷにぷには昼・夜両方見ないとダメですね。
わざわざ広島から見に来たメンバーも、「昼と夜でこんなに芝居の内容が変わるとは!」と驚いていましたから。演奏は、実に立派でしたよ!アンケートなどを見ても、大好評でした。「首筋がゾクゾクして、鳥肌が立った」など、絶賛されていました。
「執行人」
2009年から裁判員制度がスタートします。
これで1本、社会風刺作品を作ろうと思っていました。
「執行人」は、裁判員制度が始まって数年経った近未来のお話です。
今回上演した他の作品の登場人物は、普通ではないエキセントリックなキャラクターばかりです。
「執行人」の主人公だけは、どこにでもいるごく普通の人なんです。
その普通の人が、狂ってしまった社会の中でどう生きるかというテーマです。
実に地味なストーリーです。
普通の人ですから、派手な演技も出来ません。
淡々と始まり、終っていかなくてはなりません。
なおかつ、お客様を退屈させず、不安な空気を伝えていかなくてはならないという難しさがありました。
僕自身が「執行人」で課題と考えたのは、やはり演技面です。
ご覧になってもほとんどお気付きにはなっていないと思います。
物凄く細かい肉体制御を行っていたつもりです。
ですから、写真を撮ってくれていた広島公演実施副本部長が「動きが激しくて、全ての写真がブレてしまっている」と言っていました。
ほとんど止まっている瞬間はなかった筈です。
地味な作品ですから、上演する前から、お客様からの評価は低いだろうと思っていました。
でも、舞台をやっている方々やパフォーマーの皆さんからは、絶賛していただきました。
その演技の難しさを理解して頂いたのでしょう。
とても嬉しいです。
脚本を褒めてくださるアーティストの方も、沢山いらっしゃいましたよ。
勿論「ベリーダンス社長」も大好きな作品ですけど、「執行人」のような作品の方が、より”ぷにぷに”らしいと思っています。
静かだけど緊張感があり、日常の小さな断片を切り取っただけなのに人生そのものが描けているという作品を目指していきたいと思っています。
「執行人」は、その試金石になったような気がします。
「きっと来る・・2」
「初笑い!ぷにぷにコント祭り」に出演した男性陣5人による作品です。
公演の冒頭で上演した「きっと来る‥」は、「リング」の貞子のパロディでした。
「きっと来る2」は、貞子に呪い殺される女子高生の姿を面白可笑しく描いてみました。
社会風刺の精神など全くありません。
とにかく笑って頂きたいのと、お客様にアンケートにご記入頂きたいという思いだけの作品でした。
非常に軽い内容ですし、アドリブを沢山入れるタイプのものなので、左程稽古は必要ないと思っていました。
しかし、心配なので一度ぐらい通して稽古したいと思っても、皆自分のメインの作品に手一杯で、なかなか稽古に応じてくれません。
結局、本番日の朝、初めて全員で「きっと来る2」の稽古が出来たのでした。
何と言うお手軽な作品でしょう!
それでいてあんなに評判が良いのですから(人気投票で2位でした)、演劇、特に喜劇って何なのか、益々分からなくなります。
実は、毎公演、アンコールの評判がすこぶる良いのです。
前回の「なまはげ様」もそうでした。
緊張感や深いテーマ性がないため、お客様も気楽に楽しめるのかもしれません。
また、アドリブを中心に展開するので、お客様の空気とマッチさせやすいのも事実です。
演じている側も、とても楽しいのですよ。
「きっと来る2」で、「アンケートを書かないと死ぬ」なんて脅かしたせいかどうかは分かりませんが、沢山のお客様にアンケートにご記入頂きました。
その回収率は、なんと9割を超えていました。
これは驚異的な数字ですよ。
ご協力頂いた皆様、本当にありがとうございました。
皆様のご意見を、今後の公演に生かしていきたいと思っています。
らく太君の一番最後の説明が長くて、随分長い間、我々は死んでいなくてはなりませんでした。
ただ寝っ転がっているだけのように見えますけど、舞台で死んでいるのって意外に大変なんですね。
死ぬのも案外難しいんですよ。
ところで、今回の公演で、僕は何人の登場人物を殺したのでしょうか?
夜の部だけのTaekaさんのベリーダンスショーです。場内は熱狂のるつぼに!!


2009年1月11日 14:47 | カテゴリ:公演案内