ぷにぷにパイレーツ

公演案内

第10回公演「ぷにぷに印象派祭り」

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*公演日: 2010年6月20日(日)

*開演時間: 14:00(マチネ) & 18:00(ソワレ)

*会場: アトリエ無現(田園都市線・駒沢大学駅より徒歩7分)

      世田谷区野沢2-26-22川又ビルB1

 

*キャスト

  作・演出・出演: 石崎一気

  キーボード演奏: Sachiko

  制作・舞台監督: じゅん

 

 

Sachikoプロフィール

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武蔵野音楽大学ピアノ科卒業
(在学中、創立者・福井直秋記念奨学生)

劇団四季音楽スタッフ、ヤマハ音楽教室講師を経て、現在はクラッシック、

シャンソン、カンツォーネ等声楽の伴奏や、プレイヤー活動を行う。

自身の音楽教室も開講し、後進の指導にも当たっている。

 

 

コンセプト

ぷにぷに印象派祭り」は、そのタイトル通り、僕が完成を目指す”印象派演劇”のスタイルを希求した公演です。

“印象派”は、19世紀末に、ヨーロッパを中心に発生した芸術運動です。それまで、画家たちは、富裕な人たちの肖像画を描くことで生計を立てていました。しかし、写真が発明されたことにより、彼らはその仕事を失ってしまったのです。リアリズムで勝負したら、絵画は写真に勝ち目がありません。そこで、一部の画家たちは、絵画でなくては表現できない独自の世界を模索し始めました。そんな中から、細部にこだわらない大胆な空間表現や光の質感の変化を表し、芸術性やメッセージ性の強い、“印象派”が誕生したのです。

確かに、印象派後期を代表する画家・ゴッホの作品を見ても、リアリズムはほとんど感じられません。しかし、その強烈な色彩、構図、筆遣いが、言わば心象風景となって、私たちの心に迫ってきます。“印象派”のアーティストにとっては、現実をありのままに正確に描くのはリアルではなく、自分の心に映る様をそのまま描いた方がより真実性を帯びているのです。

“印象派”は、技術革新や社会状況の変化によって生み出された芸術運動です。そして、2010年の今現在も、芸術を取り巻く環境の変化は、著しいものがあります。音楽はCDから配信へ、文学は紙の本から電子書籍へ、映画は平面から3Dへ、放送は電波からストリーミングへ・・・。急ピッチで進むデジタル革命によって、今後、芸術はどのように変質していくのでしょうか?21世紀の印象派とは、どのような芸術運動になるのでしょうか?最もアナログ芸術とも言える演劇に、未来はあるのでしょうか?

「ぷにぷに印象派祭り」で、僕は自分なりに“21世紀の印象派演劇”の方向性を打ち出してみたつもりです。演劇でなくては表現できない世界、そして作者の内的世界の表現を前面に打ち出した芝居を、今後益々、追及していくつもりです。

「ぷにぷに印象派祭り」では、20年来の盟友で、素晴らしいピアニストSachikoさんと、念願の共演が実現しました。ドビュッシーやラヴェルなど“印象主義音楽”の生演奏に乗せて、“印象派演劇”をお届けしました。また、かつて、某・大劇団で制作のプロとして活躍した経験のあるじゅん君にも、様々な面でサポートして貰いました。

 

上演作品&演奏曲目

 ドビュッシー作曲『グラドゥス・アド・パルナッスム博士』

 

♪ ラヴェル作曲『マ・メール・ロワ』から『眠りの森の美女のパヴァーヌ』

 

★人間喜劇「穴」

 

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2009年末、かつて僕が所属していた劇団の同期が集まり、「ぷにぷに印象派祭り」の企画会議を行いました。

その席上、「他の同期のメンバーはどうしている?」という話になりました。そこで交わされた雑談が、僕の心に強烈なインパクトを残しました。一つの悲しいエピソードが、僕の中で、ムクムクと演劇作品に成長していきました。つまり「穴」は、実在の人物を大幅にデフォルメした作品なのです。

 

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ストーリーを、簡単に、ご紹介しましょう。

醜さゆえ、女性から全く相手にされない(と思っている)男が、同じアパートに住む女性・ミカに恋をします。

男は、恋を成就させるために、醜さを隠そうと、全財産を叩いてあるモノを購入します。早速装着してミカに会いに行きますが、果たして、男の想いは叶うのか・・・?

 

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僕は、この作品を、人間喜劇と銘打ちました。主人公やミカに寄り添い感情移入すると、とてつもない悲劇に感じられます。しかし、その2人を俯瞰で見ると、何とも滑稽な喜劇に見える筈です。見る人の立ち位置で、悲劇にも喜劇にも見えるよう、重層的な構造を持つ作品を目指しました。

ですから、まず、脚本を書く段階では、徹底的に喜劇を意識してみました。なるべくバカバカしく、笑えるようなセリフを折り重ねていったつもりです。そして、演出を考えるときには、可能な限り、悲劇的な演技プランを選択していきました。僕の目論見は的中したようで、マチネでは客席から爆笑が巻き起こったのに対し、ソワレでは悲しみのあまり涙をこぼした方もいらっしゃったんだそうです。ご覧になるお客様によって見え方が異なる、稀有な作品に仕上がったのではないでしょうか?

 

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この作品の特長は、主人公の動きにあります。全てのシーンで、ポーリッシュ・マイムを取り入れてみました。まず、主人公のねじ曲がった性格を、姿勢や一つ一つの動きで表現しています。ストップを多用し、ぎくしゃくした人間関係を象徴しているつもりです。一つの動きの中でもスピードを大胆に変化させ、心理の変化を有機的に表してみました。多くのお客様が異様なストーリーに驚愕されたようですが、普段から演劇に親しんでいる方には動きそのものを楽しんで頂けたようです。

 

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この作品のハイライトは、ドビュッシーの「ロマンチックなワルツ」に乗せて上演するパントマイム・シーンです。外見の変化に合わせて人間の心理が動いていく様子を、マイムで演じてみました。ダンスと同じように、曲の各フレーズにきちんと振付を当てて、ドラマチックに描いています。Sachikoさんの情熱的な生演奏によって、とてもダイナミックな動きが出来たと思うんですが、いかがでしたでしょうか?

 

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僕は、「穴」の方向性こそ、印象派演劇だと思っています。見る人によって、滑稽にも哀れにも感じられる…。強烈な映像が目に焼き付き、それが見た人の記憶の中で独自に成長し、躍動をはじめる・・・。今後もこの方向性を発展させていくつもりです。

     

♪ ドビュッシー作曲『ロマンチックなワルツ』

 

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♪ シベリウス作曲「抒情小曲集」から『ちょうちょう』 

 

★「蝶」

2本目に上演した「蝶」は、上演時間約10分の小品です。「ぷにぷに印象派祭り」の中で、唯一、ポジティブな視点を持った作品です。爽やかな夏の青空に飛び立つ蝶に、自分の姿を重ね合わせていく青年の姿を描いてみました。

 

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パントマイムの代表的なレパートリーに、“蝶”があります。せっかく教わったので、いつか、どこかのシーンで使いたいと思っていました。しかし、なかなか、芝居の中で蝶は登場してきませんよね?そこで、あえて、蝶を主役にした作品を考えてみたのです。

 

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最初は、毒を持った蝶が人を襲う話をやろうかと思っていました。しかし、それでは、今回の公演が、暗い陰気な作品ばかりになってしまいます。また、劇団関係者から、「そんな気持ちの悪い劇はやめた方がよい!」と、猛反対されました。そんなわけで、明るく前向きなストーリーを設定してみたのです。

 

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「蝶」は、「穴」「幸せ箱」という大作2つに挟まれて、地味な印象の作品だと思います。しかし、「蝶」が好きだというお客様は、少なくありませんでした。「飛んでいる蝶が見えた」「抜けるように青い夏空が目に浮かんだ」などの感想を頂戴しました。「蝶」を見て、視覚的なイメージを膨らませた方が、多かったようです。中には、「海風を肌で感じんた」とおっしゃった女性もいらっしゃいました。本当に嬉しいですね。

 

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僕は、本来、「蝶」の主人公のようなキャラクターを演じるのは苦手です。年齢も違いますし、もっと濃い圧力のある役柄の方がやりやすいのです。しかし、公演全体のアクセントとして、こういった明るい作品は、絶対に必要です。今後、益々精進して、爽やかなキャラクターもしっくりくるように、レベルアップしていきたいと思っています。

 

 

♪ ドビュッシー作曲『2つのアラベスク~第1曲』

 

♪ ドビュッシー作曲『夢』

 

 

★「幸せ箱」

公演の最後を飾る作品として、「幸せ箱」を上演しました。上演時間40分という、劇団ぷにぷにパイレーツ史上、最も長い作品です。

 

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幸せ箱の中には、幸せだったころの思い出が詰まっている・・・。不幸な一生を送ってきた養父と娘…。二人は、幸せ箱の中に、何を見るのか・・・?幸せ箱は、本当に、人を幸せにするのだろうか…?

 

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この作品は、静かな静かな作品です。特に、前半の20分間は、まったく動きがなく、椅子に座ったまま、優しく語り続ける演出になっています。声を荒げる場面さえ、一切ありません。舞台上の変化と言えば、数回、上手を見る程度です。「可能な限り小さな演技で、お客様の集中力を切らさない」という挑戦を、ここでやってみました。(以前に上演した「ブログの天使」や「日記」などの作品でも、その方向性を追求してきました)

 

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役者の内的エモーションだけで、観客の心理を大きく動かしていけるようになることが、僕の夢なのです。お陰様で、退屈して寝てしまう方は、いらっしゃらなかったようです。むしろ、客席内に異様な緊張感が漂い、「次は、どうなるんだ?」と前のめりになっていらっしゃるお客様が多かったように感じました。

 

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前半は、ドラマティックな後半に向けて、しっかり伏線を張るパートです。しかし、早くも、洟をすする音が聞こえたり、ハンカチで目元を拭う姿が見えたりしていました。皆さん、しっかり、作品の世界に入って下さっていたんですね。

 

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後半は、椅子を取り払い、しっかりと動きを見せるパートになります。とは言っても、動きはとても遅く、スローモーションに近いものです。どんどん、セリフの速度も遅く、間も長く、声も小さくしていきました。こちらから一方的にイメージを押し付けるのではなく、お客様に、自由にイマジネーションを広げて頂く為です。実際、皆さんが、それぞれにご自分の心の中で、幸せ箱を覗いて下さったようです。特に海岸のシーンは評判が良かったですね。「海が見えた」「波の音が聞こえた」「海風が頬を撫でていった」といった感想をおっしゃるお客様が、大勢いらっしゃいました。

 

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約8分にも及ぶ一番のハイライト・シーンは、Sachikoさんの演奏に乗せて、パントマイムで演じました。本番では、Sachikoさんが、稽古の時の何倍もの圧力を掛けて、演奏で、グイグイ僕の背中を後ろから押してきました。当然、僕もそれに乗って、稽古の時の何倍もの圧力で、感情表現をせざるを得なくなりました。そうこうするうちに、僕自身が感情に飲み込まれてしまい、不思議な感覚を覚えました。僕が感情を持っているのではなく、感情の中に僕が取り込まれてしまっているのです。肉体は消滅してしまい、精神が感情の中に融けていって、宇宙と融合している感覚です。皆さんには何の事だか分からないかもしれませんが、僕も初めての体験だったので、大いに驚きました。舞台上でこういう霊的な体験をするときは、集中力が極度に高まっていて、非常に良い状態だと聞きます。こんな貴重な体験が出来るからこそ、舞台はやめられないんですよね。

 

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沢山の方々の、沢山の涙の中、終演した「幸せ箱」!やはり、「ぷにぷに印象派祭り」で、最も評価された作品となりました。作・演出の僕ですら、稽古中は勿論、本番で上演している最中も、しみじみ「良い作品だなあ…」と思っていたぐらいです。自分で書いた脚本の中で、最も好きな作品です。あなたが幸せ箱を覗いたとしたら、どんな場面を見ることになるのでしょうか? 

 

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♪ ラヴェル作曲『亡き王女のためのパヴァーヌ』

 

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「ぷにぷに印象派祭り」ドキュメント

つものように、午前10時集合。

まずは、キーボードのセッティングです。

設置する場所を上手ツラに決め、ケーブルをミキサーに接続しました。

そして、実際にSachikoさんに演奏して貰いながら、曲ごとの音量を確認していきました。

 

続いて、照明作りです。

基本的に、灯りのパターンは2つです。

「穴」「幸せ箱」用の暗めの照明と、「蝶」とフリートーク用の明るめの照明です。

灯体の位置や向きを調整し、光量を決定していきました。

灯りの雰囲気は、全て、じゅん君に判断して貰いました。

 

そして、場当たりに入りました。

照明や音響のきっかけの確認です。

脚本に、しっかり、きっかけを書き込んでおきました。

それを見れば、誰でも簡単に出来るように感じられるかもしれません。

しかし、実際には、芝居の雰囲気を生かすようなタイミングや、変化のスピードが必要です。

じゅん君は、稽古にも初期から参加して、作品のイメージを掴んでくれていたので、実に巧みに舞台監督の役割を果たしてくれました。

 

場当たりが終わると正午を回っていたので、弁当を食べました。

そして、客席を作り、劇場の細かい部分を調整していると、たちまちのうちに、昼の部の開場時間を迎えました。

僕は、表に出て受け付けを、じゅん君は場内整理を担当しました。

滞りなくお客様をお迎えして、定刻より3分押しで、マチネ開演。

ラン・スルーを行っていないにもかかわらず、実にスムーズに進行していきます。

舞台監督のじゅん君が、最大限の集中力で臨んでくれたからでしょう。

Sachikoさんのピアノも乗りに乗っていて、稽古場で聞く演奏とはレベルの違うモノになっていました。

お客様の興奮と熱気に包まれた中、無事、95分間の公演が終了しました。

 

マチネ終了後、休憩を取りながら、問題点を討議していきました。

その結果を受けて、キーボードの位置をずらしたり、客席の配置を少し変えたりしました。

また、照明のタイミングについても、微調整して貰うことになりました。

 

そんなことをしていると、あっという間に、夜の部の開場時間を迎えました。

今回は、珍しく、マチネとソワレのお客様の数がほぼ同じでした。

(いつもは、圧倒的に、マチネの方が多いのです)

コンスタントに、お客様がお越しになり、今度は定刻通り18時に開演しました。

 

ソワレは、マチネと、まったく違う雰囲気でしたね。

僕自身は、同じように演じているつもりなのに、お客様の反応がまるっきり逆なんです。

例えば、マチネでは「穴」という作品で大爆笑が止まらなかったのに対し、ソワレでは異様な緊張感が漂い、悲しみに涙をこぼした方もいらっしゃったそうです。

僕もSachikoさんも、そんなお客様のパワーに引きずられて、昼と夜では全然違うパフォーマンスを行うことになってしまいました。

演者は、絶対にお客様のエネルギーに勝てないのです。

まさに、多勢に無勢ですね。

 

ソワレには、元・劇団で同期だったロベルト君も駆け付けてくれました。

自発的に、場内整理を手伝ってくれました。

本当に嬉しいですね。

二十数年来の友人と、こんな形で一緒に公演が出来るなんて、夢のようです。

 

ソワレも、順調に95分で終了。

お客様をお見送りして、早速片付けに入りました。

撤収はすぐに終わり、20時20分頃、アトリエ無現を後にしました。

 

さあ、楽しみな打ち上げです。

劇場近くのもつ鍋屋さんで、食事を楽しみました。

Sachikoさん、ロベルト君、じゅん君と、今回の公演について振り返っていきました。

昨年末、この4人で企画を立ち上げて、半年間に渡って一緒に稽古を行い、作品を育んできたのです。

各自が、それぞれに、熱い思いを持って、取り組んでくれた訳です。

僕は、彼らに、心から感謝しています。

この素晴らしい仲間こそ、僕にとって最高の宝物だと思いました。

もし、僕が“幸せ箱”に入るなら、「ぷにぷに印象派祭り」の稽古場を選びます。

 

 *予告編映像   

 

   ①「居酒屋」

  

   ②「稽古場」

 

   ③「お好み焼き」

 

   ④「演劇論」