ぷにぷにパイレーツ

ブログ

動かない勇気

 

アナウンス・ハウスHPのトップ・ページに現在掲載中のエッセイを、ここでもご紹介したいと思います。

「風船」という作品についてのお話です。

タイトルは、”動かない勇気”です。

 

「本当に大切なシーンは、動かない方が良いと思います」

 ズキューン!ロウミンさんのその一言で、僕の心は見事に撃ち抜かれました。「これまで培ってきた演技のノウハウは、一体何だったんだ!」と思う程、 強烈な衝撃を受けてしまいました。舞台上での究極の動きとは、動かないことだったのです!

 近日、僕は、自分の主宰する劇団の公演で、パントマイム作品「風船」を上演します。風船を通して親子の情愛を描いた、繊細な演技を求められる小品です。

 僕は、数年に渡ってパントマイムを練習しています。派手で大きな動きは、精一杯体を動かせば、それなりに表現出来るようになってきました。 しかし、細やかな心理の動きを緻密に表現する演技は実に難しく、なかなか上手く出来ません。そこで、僕は、日本を代表する女性パントマイマー、ロウミンさんに 稽古場までお越し願って、その動きを教えて頂くことにしました。

 まず、僕が、持てるテクニックを総動員して、可能な限りドラマチックな表現で、作品をお見せしました。しかし、ロウミンさんの感想は、たった一言。「動き過ぎです!」

 詳しく伺ってみると、「それだけ動くと、主人公の肉体の動きしか見えません。主人公の心の動きに光を当てて下さい」とのことでした。パントマイムですから、 心理描写をするためには、体を動かさなくてはなりません。でも、観客に体の動きを意識させては、心理描写が陰に隠れてしまいます。最大の表現を行いたい時には、 逆に、動きを最小限に抑えることが必要です。つまり、“動かない勇気”を持たない限り、本当に深い表現は出来ないのです。

 ロウミンさんに、お手本を見せて頂きました。なるほど、微かな動きでした。しかし、そこには、人間の悲しさ、優しさ、愚かさ、愛しさ‥、その他、様々な大切なものが 表現されていました。あまり動かないことで、激しく動き回る何十倍もの思いが表現出来るんですね。

 この“動かない勇気”は、アナウンサーにも必要です。実況中継やリポートなどの際、ついつい「五感で感じたことを、すべて喋ってやろう」と考えがちです。 しかしそれでは、アナウンサーの個性ばかりが悪目立ちしてしまい、本当に伝えたい事の印象が薄れてしまうのです。選び抜かれた珠玉の一言を、最大限の配慮をした上で 初めて口にしていく。場合によっては、黙る‥。そんな“喋らない勇気”を持つ必要があるのかもしれません。

 現在、僕は、本番に向けて動かない練習をしていますが、本当に大変です。激しく動くより、何倍も精神力と体力を消耗します。確かに体は動かさないのですが、 内的情動は最大限動かしている感じです。お客様の心を動かすためには、演者はそれだけのパワーを持って自分の心を動かさなくてはならないのです。 演技って、なんて奥深いものなんでしょう!

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.punipuni.org/mt/mt-tb.cgi/296

コメントする